私は48歳で、医療法人の理事長をしています。役員賞与を支給すると、年間の社会保険料の負担額が減ると聞いたので、毎月の役員報酬額を月50万円にして、年1回の賞与を900万円に設定しました。健康保険は歯科医師国保に加入しています。しかし、実際にしてみると、毎月の役員報酬だけでは生活費が足りず、また社会保険料の負担額もさほど減りませんでした。
歯科医師国保に加入されている場合、極端に毎月の役員報酬を減らして役員賞与を極端に高額にしない限りは、役員賞与を支給しても、社会保険料の負担額が大きく軽減されるわけではありません。
毎月の役員報酬を減らしすぎると、毎月の役員報酬だけでは生活が賄われず、貯金が潤沢にある場合を除き、生活が苦しくなってしまう可能性もあります。
役員賞与の支給をして年間の社会保険料の負担を軽減する、という方法はあります。調べていただくとたくさん情報が出てきます。
しかしそれは基本的に健康保険が協会けんぽである場合に、軽減額が大きくなります。
48歳の理事長の役員報酬と役員賞与の支給額を年間1,500万円と定めた場合、
- ①役員報酬を毎月125万円支給する場合と
- ②役員報酬を毎月50万円支給し、役員賞与を年1回900万円支給する場合とで、
社会保険負担額(理事長個人の負担額を含む)を比較してみます。
①役員報酬を毎月125万円支給する場合
イ.年間の厚生年金保険料:約142万円
ロ.年間の健康保険料:約180万円
イ+ロ=約322万円
②役員報酬を毎月50万円支給し、役員賞与を年1回900万円支給する場合
イ.年間の厚生年金保険料:約137万円
ロ.年間の健康保険料:約138万円
イ+ロ=約275万円
年間の総額は同じでも、協会けんぽに加入している場合は、役員賞与を支給することにより、個人負担分も含む社会保険料の合計が年間約47万円減りました。
しかし、ほとんどの先生が協会けんぽではなく、歯科医師国保に加入されているかと思います。歯科医師国保の場合、協会けんぽのように収入に応じて保険料が変わらず、年齢や種別に応じた定額の保険料となります。
上記の例でいくと、歯科医師国保に加入している場合は、①でも②でも年間の健康保険料は同額なので、厚生年金保険料分しか差は生まれず、その差額は約5万円のみです。
ただし、歯科医師国保に加入されている場合でも、例えば毎月の役員報酬を10万円、年1回の役員賞与を1,380万円にするなど極端な場合は、年間の社会保険料の負担額も大きく減ります。この例では、役員報酬を毎月125万円支給する場合と比べ、年間約93万円の社会保険料の負担が減ります。
なお、この方法を用いる場合は、リスクやデメリットもあります。まず、役員賞与の支給にあたってのルールを守らないと、賞与支給額が税金の計算上、損金とは認められず税金の負担額が増えてしまいます。詳しい内容は以前のブログをご確認ください。
また毎月の役員報酬額を減らしすぎて、役員報酬だけでは毎月の生活費が賄われないといったことにならないよう、注意が必要です。
さらには、厚生年金保険料の負担が減るということは、将来受け取ることができる年金も減ることになります。
役員賞与を支給して社会保険料の負担を減らしたいと思う場合は、リスクやデメリットがあることを把握し、保険料の軽減額をシミュレーションしたうえで、慎重にご検討ください。