今回は、医療法人の設立を考えておられる先生から、先生個人が所有するクリニックの土地・建物を、医療法人名義にするか、先生個人のまま医療法人から賃貸料をもらったほうがいいか、というご質問がありましたのでご紹介させていただきます。
法人所有にする場合、下記のようなデメリットがあります。
- 個人から法人へ名義変更する際、個人に譲渡所得税や消費税が発生する可能性がある
- 法人に不動産取得税が課される
- 不動産名義変更費用や司法書士報酬がかかる
個人所有のままにして法人から賃貸料をもらう場合、下記のようなデメリットがあります。
- 不動産所得が発生するため、毎年確定申告が必要となりその分の税理士報酬がかかる。
また、医療法人から役員報酬の額を減らしその分を家賃でもらうということになるかと思いますが、たとえば事務をしている奥様など他の役員よりも、役員報酬が低くなる場合は、税務署から否認されるリスクも出てきます。 - クリニックの土地・建物に係るローンは個人に残り、ローン返済や修繕費なども個人で負担することになる
- 個人の財産として残るため、将来の相続税負担が大きくなる可能性がある
具体的にどのように判断するのでしょうか。
その一例は下記のとおりです。
医療法人となると、個人クリニック時代のように好き勝手に事業用口座からお金を引き出すことはできません。基本的には医療法人から支給された役員報酬や不動産賃貸料から生活資金を賄うことになりますが、クリニックの不動産のローン返済が生活費を圧迫させるような場合は、不動産を法人名義にしたほうがいいかと思います。
医療法人で多額の役員報酬をもらう場合、個人の税負担が大きくなります。不動産賃貸料をもらう場合は、その分の役員報酬を減らすことになるかと思います。
不動産収入については、固定資産税などの経費を控除することができますので、役員報酬を減らし、その分を不動産賃料としてもらう場合には、個人の税負担は圧縮されます。役員報酬を多額にもらう予定の場合は、不動産を個人名義のままにしたほうがいいかもしれません。
後継者がおらず、将来的に第3者へ事業譲渡する可能性が高い場合は、不動産を個人名義のままにしたほうがいいかもしれません。
というのは、法人が建物・土地を持っていると、事業の買手が大きく減ってしまい、最終着地で柔軟性を持てなくなる可能性が高くなるためです。
クリニックの土地・建物を法人名義にするのか個人名義のままでいくのかは、先生の状況に応じて総合的に判断する必要があります。