個人クリニックを廃業する場合の手続き①

 今回は親族の承継や第三者への譲渡はせず、個人クリニックを廃業する場合の税務手続きについてお伝えさせていただきます。

1.税務署に提出する書類

 閉院時には、下記のような書類を所定の期日までに税務署や各自治体に提出する必要があります。

(1)個人事業の廃止等届出書

閉院後1カ月以内に、事業を廃止した旨の届出書を税務署に提出します。

(2)所得税の青色申告の取りやめ届出書

青色申告をしている場合は、青色申告を取りやめようとする旨の届出書を、閉院した年の翌年3月15日までに税務署に提出します。

(3)給与支払事務所等の廃止届出書

専従者給与を含め、給与の支払いがある場合には、閉院後1カ月以内に給与支払事務所等の廃止届出書を税務署に提出します。
預かっている給与の源泉所得税は、閉院した月の翌月10日までに納付します。
なお、納期の特例を受けて半年に1度しか源泉所得税を納付していないクリニックでも、廃止届の提出により特例の適用がなくなり、翌月10日までに納付する必要があるので、納付時期には注意が必要です。

(4)事業廃止届出書(消費税関連)

消費税の申告を行っている個人事業主である場合には、事業廃止届出書を閉院後速やかに税務署に提出する必要があります。
なお、例えば簡易課税を選択している場合に、当該廃止届出書を提出すれば、簡易課税の不適用の届出も提出があったものとして取り扱われます。
 また、インボイス登録を受けていた場合には、当該廃止届出書の提出により、事業廃止日の翌日に、インボイス登録の効力も失われることになります。

(5)所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

予定納税として、その年の税金を前払いしている個人事業主は、廃業により予定納税する税金が多すぎると考えられる場合には、予定納税額の減額申請書を所定の時期までに提出することにより、予定納税額を減額調整してもらえます。

 確定申告により、結局は払いぎた予定納税額は返してもらえますが、資金繰りの観点から事前に支出を減らしたいという方は、予定納税の減額申請をしましょう。

(6)各自治体への事業廃止届

  税務署だけではなく、各自治体にも所定の書式で廃止届を提出する必要があります。なお、各自治体により書式や提出期限が異なるため、最新の情報をその自治体のHPや窓口にてご確認ください。

2.事業で使用していた資産を譲渡した場合の税金

 閉院してもその年の1月1日から閉院までの事業収入に対しては、翌年の3月15日までに確定申告を行う必要があります。
ほっとして、提出漏れがないようにしましょう。

 なお、閉院に伴い医療用機器などの資産を譲渡した場合には、譲渡所得の申告が発生する可能性があります。
この譲渡所得は、事業所得と合算して閉院した年の所得税を算出することになります。

 ただし、歯ブラシなどの商品や、減価償却資産でも使用可能期間が1年未満のものや取得価格が10万円未満のものは、基本的に譲渡所得の対象外となります。

 また消費税の課税事業者である場合は、譲渡金額に対して消費税もかかってきます。

3.事業で使用していた資産をプライベートで使用することにした場合

 実際に他者に資産を譲渡していなくても、例えば事業専用で使用していた車両を今後プライベート専用で使用するような場合には、その車両を時価で譲渡したものとみなされ、消費税が課されることになります。

 時価はいくらかというと、車両の場合中古車買い取り業者の下取り見積金額などとなりますが、価格が高騰している場合などを除き、未償却残高を時価と用いることが一般的です。

 なお、当該みなし譲渡は消費税が課されるのみで、譲渡所得とはならず所得税の計算には影響を及ぼしません。

 閉院に伴い、想定していなかった税金が発生する可能性もあります。
 消費税の免税事業者になってから廃業するなど、必要に応じて対策をしましょう。 

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